目次はじめに T.何故今永く愛される建物か U.永く愛されるとは V.永く愛されるために W.永く愛される建物を作る為に(提言) X.100年後の街並み Y.200年住宅を注文する エピソード
トピックス『ニューアンドクラフツ』 トピックス『建設環境コーディネーター』 トピックス 『土地問題と永く愛される建物』 トピックス『NPOと永く愛される建物』 トピックス『日本民家に学び直す』 永く愛される建物 『まとめ」 日本民家に学び直す 日本の旧来の住宅は大きく分けて農家と町屋に分けられるが、その作り方は両方とも木造であり伝統工法とか在来工法とか呼ばれている。名前の由来は戦後の新来の工法に対する呼称であって工法の種類ではない。家の構造的な種分けでいえば、石やレンガなどを積んで作る〔組積造〕に対して〔軸組造〕といわれる。木を組んで家の架構体とするから構造としては柔構造である。最近は地震対策のため筋違いを入れて剛構造とするものもあるが、地震に対しては揺れてエネルギーを吸収するのが基本である。これらの基本的な構造ゆえに、日本の民家の場合、梁や柱はリユースが可能であり、現在の環境時代に見直すべき利点である。20年ごとの建て替えで有名な伊勢神宮の木材も下げ渡された後リユースされる。しかし高温多湿なモンスーン気候なので土台部分の柱は腐りやすい。そこで、腐った部分だけ切り離して根継ぎする工夫なども、現代に復活させるべき技術であるかもしれない。その他、日本の民家の消えゆく技術で復活させたいものは多数あるが、住宅の基本は、生活に密着したものでなくてはならないという事である。即ち土地土地の気候風土にあったものでなくてはならないという事である.現在の住宅に地方特有の個性がなくなったのは、住宅と自然とを切り離して快適さを追求するあまり、その土地の自然に合わせる必要がないと錯覚した事による。四季のある日本の民家は四季折々の季節にそれぞれ対応できるような様々な工夫が凝らしてあり、それによって日本人の感性は研ぎ澄まされてきたのである。それが練度の高い短歌や俳句となって日本人の生活を豊かなものにしてきたのである。例えばガラスのない時代の日本家屋は明り取りの為の様々な工夫がしてあった。格子戸にしても、障子と雨戸の組み合わせにしても、屏風や几帳の使い方にしても明かりを如何に取りながら外界と境界を設けるかという工夫に他ならない。これらの作り出す光と影、また外界の空気との接触、ふれあいが作り出す人々の心動かし如何に多くの歌を作り出してきたか。そして自然が生活空間に入り込んでくる事、虫や生き物の発する音など、時には生活苦である事もあったであろうがそれらを排除して、その代わりに失ったものの大きさに現代人はやっと気づき始めたのではなかろうか。虫一匹いない生活空間、暑さ寒さを感じない生活空間、それを作り出すために使われている新建材の発する化学物質。それらの充満する密室空間の中に閉じこもれば健康を害するのは当たり前であろう.シックハウス症候群の発生は決して現代人が過敏になったのではなく、むしろ過去の人より鈍感になっている可能性のほうが高いが、それ以上に、密閉された環境に長時間さらされている結果だと思う。シックハウス症候群の犠牲者に子どもが多いのは身体的に弱いのはいうまでもないが、家に閉じこもる時間の多さにも関係があるのではないであろうか。話しがそれたが、昔農家にあった廊下の役割も外界と内部の関係の微妙さに一役も二役もかっている。障子で明かりを取ることは出来ても雨風は防げない。そこで雨戸があるわけであるが大抵はその間に廊下というか所謂縁側があった。夏はそこでスイカを食べ、冬は日向ぼっこをした人はまだまだおられるであろう。子どもの頃のよき思い出である。現代のサンルームやベランダでは出せない味わいであると思うがどうであろうか。家の中のサンルームでもなければ、家の外のベランダでもない中間的な空間。暑すぎるときは軒に簾をかけて直射日光を遮る工夫もあった。昔の日本人は民家に見る限り自然とともに生きる民族であって、自然に対抗する民族ではなかった事が分かる。
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