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 建設産業にセーフガードの適用はあるか

 21世紀という新しい世紀を日本経済は、予想をはるかに越える厳しさの中で迎えている。高い失業率、落ち込む消費、戦後初めてのデフレ経済が進行する中で、小泉内閣の改革の中身が真剣に問われている。経済学者ではないので、現在置かれている経済状況の実態も原因もわからないが、実際の生活の中で感じる様々な事柄を繋ぎ合わせてみるとおおよその事はつかめてくる。経済や政治の専門家はバブルの発生と崩壊による不良債権の発生と其の処理の遅れ、日本型経済システムの新しい時代への適応力のなさなど色々いっているが、実感として一番分かるのが、産業の空洞化、言い換えれば,グローバリゼーションの急激な進行である。ローテク分野が安い人件費を求めて海外に出て行くことはかなり前から起きているし,当然のことと受け止めていたが,今やかなりのハイテク分野でも中進国といわれる国々に工場が進出していて,国内は益々空洞化するばかりである。そしてこのグローバリゼーションの波は,農業などのこれまで生鮮食品は大丈夫と思っていた分野にも押し寄せている事はマスコミの伝える生椎茸など五品目のセーフガードの申請で周知の事実になっている。其の中に畳表の材料になるイグサが含まれているのも,グローバル化の波がここまできているかという事を思い知らせてくれる材料であった。小泉内閣の改革は聖域なしと言っているがグローバリゼーションにも今や聖域なしと言ったところである。スポーツの世界では,野球は当然のことながらサッカーや相撲までも外国人は珍しくないのだから市場と言ってよいかどうか分からないが其の開放度はかなり進んでいる。勿論日本人も野球の大リーグへの進出など大いに活躍しているのだから、今や世界は国連の活動が色あせて見えるほど世界はひとつと言う感じになっていている。子どもたちも簡単に世界で活躍できる選手になりたいと言う。
さて
,本題の建設産業の問題であるが,建設資材の国際化と言うか,資材の輸入率はどんどん高くなっている。一番極端なケースはキットハウスであろうが,だんだんそれに近い状況になりつつある。このことは止め様もないが,世界中がのだんだん同じような景色になるのはいただけない。土地土地の文化を大切にしていかなければ世界がつまらないものになっていく事はだれしも思う事であろう。しかし,現実には文化の多様性は徐々に失われつつあり,日本でも国際コンペで設計競技をやると海外の設計家が多く当選する。悪口を言う人は日本は世界の建築家の実験場になったと言う人もいる。その結果が長い目で見て正しい選択であれば良いのだが,海外の設計者の参入で日本の街並みが少しでもよくなったかというと個人的な意見であるが余りよくなったと言う感じはしない。このような国際入札やコンペの場合は非常にはっきりするが,深く静かに進行している事柄もある。建設産業を特色付ける言葉に,建設産業は現場が動かせないので典型的な国内産業であるといわれる。しかし,先程述べた資機材の輸入率の高まりや加工済み鉄骨の輸入など従来現場でやっていたものが工場に変わり,其の工場が海外に立地していくなど確実に空洞化は進行している。そして,労働者は輸入出来ないから雇用対策の面でも建設業は大切であると言われてきたが,組立作業しか残っていない現場に必要な人数はどんどん少なくなってきている。残るのは現場監督と小数の組み立て作業員だけと言う事になりかねない。生コンや、漆喰など手間のかかる作業はどんどん少なくなって所謂乾き物が多くなり施工性を上げていく。これまた当然の流れであろう。また設計や積算などソフトの分野は大丈夫と思っていたが,このところの通信手段の発達によって、その辺も非常に危なくなってきた。スモールオフィース,ホームオフィースと言われるソーホーは国内での現象と思っていたら,今やインターネットの発達で,設計積算というソフトの分野も人件費の安い国に外注されていっているそうである。このように国内産業の砦と言われた建設業も実際の中身は空洞化の大波に洗われているのである。表題のセーフガードに頼れない事はいうまでもないからこの対策は容易ではない。これについて,思い出されるのは数十年前にアメリカが大きな貿易赤字に苦しんでいた頃とっていた政策,バイアメリカン政策である。国内産業を守る為にアメリカ製品の購入を優先させたものであるが,今はWTOがあってそんな事はできそうにない。この解決の為には文化の独自性を国民が守るという意志を確りもつしかないと思うが,それもまた無理な注文であろうか。しかし,建設産業の復活を考えるなら,建設の芸術的要素を高めていく事しかないのではないか。米の自由化の後米作りが守られてきた最大の要因は国民のニーズに合った米作りを心がけて成功したからである。生鮮野菜も品質を高める事で対応していくと言う。建設産業も其の方向で考えていくしかないと思う。