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今こそホットな景観論争を

  7月25日朝日新聞の夕刊に 議員会館頭が高い という見出しの記事が掲載された。その記事によると、衆参両院の議員会館が高層化されて建て替えられる予定である。現在の議員会館は40年前建てられたもので、当時は国会議事堂を正面から見ても議事堂の背後に議員会館が隠れるように配慮して高さが決められている。従って、現在まで国会議事堂の景観は確りと守られてきているのである。しかし、現在、練られている計画は6案あるが何れも国会議事堂の両翼の高さをはるかに越える高さで設計されている。現在の議員会館は高さ38メートルであるが一番低い案でも65メートルあり完全に議事堂の上に聳え立つ事になる。一番高いケースは98メートルもあり、議事堂を見下ろす感じになる。これは国のプロジェクトであり来年の3月に向けて予算化の動きをしているわけだが、厄介な事に民間のプロジェクトの方は、一つは既に完成し、もう一つも矩体は完全に出来上がっていて、国会議事堂の背後に高層ビルが二本建っているという状況になっている。景観、景観と言っても、既に一部は破壊されているとも言える状態である。これらの民間プロジェクトは法的に規制する方法が無く景観行政の遅れも指摘されている。しかし景観行政をつかさどる国自らが景観を疎かにする、しかも国権の最高機関である国会議事堂の景観を損なう計画を進行させているとしたら、これは無視できない事ではないであろうか。そもそも国会議事堂が現在の位置に、しかも当時としては日本一の高さを誇っていたという事実があり、その時建設計画に携わっていた人達の意図は明らかである。即ち国権の最高機関としての権威をもたせる設計内容であったと思われる。こういった先人の意図を後世代の人が経済的な効率のみでなし崩しにしても良いものかどうか。たまたま国会議事堂という国権のシンボル的な建物の問題であるが、議員会館建て替え問題は、何を残し何を守るべきかという問題のシンボリックなケースとは言えないであろうか。
この問題を機会に、地球環境問題の関係もこれあり、建物を永く愛していかなければならない時代にふさわしい、景観や伝統的建造物の保存を含めた美しい国土形成のための新たな合意形成の努力をするべきではないだろうか。先ほど触れた民間の場合、景観の問題でも歴史的建造物の保全の問題でも必ず問題になるのが私権との兼ね合いである。どちらの場合も私権の制限なくして望ましい結果を得られないことは紛れもないことであり、この問題は国民的な広がりを持った議論を起こさないと根本的な解決はありえないと思われる。しかもこの問題は、厄介な事に望ましい景観、望ましい環境そのものが合意形成が難しく、私権の制限にまで持っていくのは極めて困難である。そのために今日まで積極的な具体策がないままに来ているのであろう。
筆者は景観問題の専門家ではないし、都市計画法にも詳しいわけではないが、たまたま所属するNPOで去る5月30日に日仏景観会議なるものを主催した。、この会議では多くの街づくりに関心のある市民から積極的な意見が出され、フランスの建築家からもフランスの建造物保存の為の法制度の説明も聞いたが、それで分かったことの一つは、フランスでは日本より数倍、市民の合意形成の為の努力を永く続けられているという事である。日本では特に戦後は国民生活の向上やそのための経済復興最優先で、景観や文化の保存などは二の次三の次ぎどころか全くもって視野に無い時代が長く続いた。街づくりが言われだしたのは比較的最近のことでしかない。これから議論を活発にさせ、国民的合意形成に向けての努力を積み重ねていくしかないのであろう。
さて、そのための一つの方法であるが、建物の保存にしても景観の保全にしても、コストの掛からないものは無い。しかし、この財政難の時代に税金に頼るのは難しい。規制緩和の時代に逆に規制強化をしようとするのだから、対象者には応分の保障は必要であろう。その原資として、アメリカなどでは歴史的建造物の保存などの際に盛んに使われている空中権の売買を許可したらいかがであろうか。今でも隣の敷地ぐらいには容積率の移転は場合によっては出来るらしいが、公共の為に犠牲が出た場合もっと極端に離れた場所にも空中権の移動を認めるのである。この国会議事堂という国民的財産(景観的にも)を良い状況で保存する為には、議員会館の敷地から少し離れたところの容積を増やすことで解決を図るのである。場合によっては、街おこしのために空中権による容積率の割増を積極的に受け入れる地区があっても良い。その地域は高度な商業集積の場所になり、リトルニューヨークと呼ばれる事になるかもしれない。こんなアイデイアも含めて、今すぐでも国民の土地利用の仕方に対する根本的な合意形成の努力を開始する必要がある。この際、国会議員はまさに当事者なのであるから議論の先頭をきってもらいたい事は言うまでもない。新議員会館を後世の笑いものにはしたくないものである。