大競争時代から大共創時代へ
7月19日、日経新聞の一面は、久しぶりに建設業界の記事で埋められていた。しかも不祥事や倒産、合併の記事ではなかった。同じ日のスポーツ紙の裏面トップ記事も、建設最大手3社の研究開発面での提携のニュースを扱っていた。特に、免震技術などを積極的に技術交流していくという。
世界経済のグローバル化を迎えて、又建設投資が半分になっていこうとする中で、今世紀は大競争の時代といわれている。特に建設業界はこれまで業界の大きな再編や統合をやらずに済ませてきた。いよいよ、業界の再編の始まりかと考える向きもあるであろうが、今回は研究開発面だけの限定的提携であるようである。いずれはその様な動きも出てくるであろうが、業界の再編に関する問題とは切り離してこのニュースを考えてみたい。
大きな意味で言えば、技術は人類全体のもので誰が開発しようが、それが使われて、有効に機能してこそ意味があるわけで、単独であろうが共同であろうが開発の形態はどうでも良いわけである。ただ、ご存知のように特許制度は開発者に開発のインセンティブを与える為に作られた制度で、技術そのものは、なるべく早く開放されたほうが良い事は言うまでもない。
その意味では、建設技術のように、汎用性の高い分野の技術は、公的な研究機関とか、共同研究に適するものが多い。地震対策の技術は、まさに共同開発向きである。そもそも、建設技術の研究開発は諸外国では、個別の民間会社が研究所を持つて行うことはまれである。理由は先程述べたとおりで、基礎的な技術開発は大学や公的な機関でやられている。日本ではその様な技術まで、大手、準大手を問わず同じような研究テーマを横並びでやっているわけで、この厳しい時代に無駄が多いという指摘はなされていた。しかし、技術力の認定は各民間会社ごとに個別に認定するので止むを得ない面もあったわけである。日本の建設産業の競争が基本的に横並びである事に原因があるので、一朝一夕には直らない。個性を発揮して特化するには日本の歴史的風土ではリスクが大きすぎるとも言える。したがって今回の提携は、基礎技術での提携と得意分野での個別開発の強化のセットになっているわけで、大変理にかなっていることである。大競争時代になったからこそ、基本的な部分では大共創をしようという機運になったともいえる。しかし、若干遅いといわれても仕方がない。それは他産業では、既に日常的に行われている事で、宇宙開発や、大型コンピューターの開発など、事例に事欠かない。又同じ建設業界でも、中堅の建設会社40社ほどで14年前から共同の技術研究所を持ち共通のテーマを取り上げて、研究に取り組み着実な成果を上げてきている。勿論各社は独自の技術開発は小さいながらも自前の研究所を持って研究開発をやっている。大競争の時代を切り抜けるキーワードは何と言ってもコストと技術であるが、そのどちらもが、単純な猛烈競争だけではなく、国民の為の真に効率的な産業になる事である事を忘れてはいけない。そのためには競争する部分と共創する部分と両面が必要であリ、産業界全体としての効率性の高さが最終的な目標である。そしてこの大競争時代コスト削減の為の技術開発の必要性は高まりこそすれ、低くなる事はない。そして、大手から中小まで研究体制の問題を含めてコストの問題は大きな課題であることはいうまでもない。今回の提携が投じた一石の波紋は恐らく高い波になって業界に押し寄せる事になるのではないか。それというのも、この提携の結果は恐らく他の分野、例えば資材、労務などの他の分野にも広がる可能性があるからである。いうまでもなくこの事は系列の見直しになり産業界の構造変化を呼び起こすことになる。いずれは業界の再編にも繋がるであろう、今は、この提携の行方をただ見守るしかない。
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