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建設倫理に於けるアメとムチ

 不祥事が起きるたびに、再発防止の色々な意見や策が語られる。その大半は罰則の強化である。独占禁止法違反の場合にも、建設業法違反の場合にも、この10年間かなりの罰則強化がなされている。しかし、詳細な数字は分からないが、不祥事が激減したという話しはきかない。相変らず不祥事は起きているし、内容も更に悪化しているとも言えるケースが目立つ。特に政治からみの不祥事ででてくる内容は、建設業界が少しも変わっていないことをうかがわせる。合法的とは言え政治献金のあり方も国民の疑惑の目で見られ、法的にはともかく倫理的には問題があると受け止められている。それらの事を冷静に考えてみると、日本社会全体に共通した体質のように思えてくる。要するに企業は収益をあげてこそ価値があり手段を選ばない。我田引水を当たり前の事と心得る。法律違反、特に独禁法違反などは交通違反と同じで摘発された人は運が悪いという感覚であるといったら言いすぎであろうか。勿論まじめに法令遵守を末端の社員まで徹底している会社もある。しかしまだまだ少数派でしかない。その原因を探ると政治腐敗の要因と全く同じ構図が現れてくる。
政治腐敗の温床は国民自身にある。我田引水、自分の地方だけが良くなればよい。そのために働く議員を求める。多少のきな臭さには目を瞑る.選挙の投票も目先の損得で選ぶ。その様な感覚が政治家を悪くし、出たい人を出させ、出したい人はしり込みをするという政治環境を作り出す。そして勝てば官軍である。それと同じ構図が建設産業にも有り、仕事を得るためには私設消費税といわれるものでも払う。そういった感覚が政治家やその取り巻きの活動の肥やしになっている。政治の浄化は国民からといわれるが、選挙の一票がものを言うように、建設業界の不祥事を無くす事ができるのは最終的には消費者である。食肉業界の不祥事で会社を潰したのはお役所ではなくそれらの会社からの製品を買うのを止めた消費者である。それはそれは厳しいムチであり、あるべき力が正しく働いたというべきであろう。
 翻って、建設業界で同様な事態が起きたとしてどうなったか.一番厳しいものが営業停止である。それはそれなりに効果はあるが、その処罰が終われば、消費者、即ち発注者はこれまでどうりに近い対応をしてくれる。不買運動のような現象は起きない。法的制裁を受けたのだからそれでよいという意見もあろうが、消費者、発注者により厳しい目をもってもらっても良いと思う。それが不祥事の再発を防ぎ法令違反が高いものにつく事を認識させる事になるはずである。そして本稿で言いたいのはこれから先のことである。消費者には、もっともっと賢くなって頂きたいのである。会社の倫理的な体質を見抜き、社員全員が好倫理体質であるかどうかを見極め、できるだけそういった会社を選んで発注してもらいたいのである。アメリカでは上場会社の大半が倫理担当役員を置き、全社員に法令違反をしないように指導すると共にトップ自らが利益よりも倫理を優先させよという号令をかけている企業もある。そしてその様な会社を消費者は積極的に応援し業績も伸びているという事である。このように、ムチばかりでなく消費者によるアメの必要もムチ以上に大切なのではなかろうか。我々、建設環境情報センターが建設倫理の構築と実践を目指して活動している事は述べた事があると思うが.建設倫理の5つの柱に消費者の倫理を加えているのはその様な事を考えてのことである。結局は技術者倫理も、経営倫理も、環境倫理も、文化の倫理も、これら4つの倫理全てが消費者の倫理にゆだねられていると言っても良い。我々NPOは、消費者に対するこのような賢い消費者になってもらう運動を最も大切な課題と考えるべきなのである。