電子入札の問題点
政府の肝いりで社会がIT化の速度を速めている。ブロードバンドなど実際の通信速度も格段に上がっているが、Eコマースやインや-ネットバンキング、インターネットショッピングなどITが扱えなければ社会生活が出来なくなる日も近いようだ。ITリテラシーなる言葉もあって,昔言われた無学文盲という言葉が身に迫ってくる気がしている。私事で恐縮だが,先日多くなりすぎた本の整理をしていたら娘が百科事典を捨てろと言うので理由を聞いてみたら,百科事典などはCDロム一枚に入ってしまうのだから,こんな狭いうちには邪魔なだけだと言うのである。学生時代から引越しのたびごとに重い思いをして手元に置いてきたのにと思ったが狭いスペースしかないのだからと諦めて捨てる事にした。今では百科事典など古本屋でも引き取らないと言う。世の中変われば変わるものだとしか言い様がない。余談はさておいて、建設業界でもIT化の波は確実に押し寄せている.国土交通省も直轄工事の電子入札の導入を一年前倒しにして建設CALS/EC化をスピードアップするという。目的は行政コストの縮減と競争の促進により事業費の削減を図るというものである。どちらも是非進めていただきたいことで異論をさしはさむ気持ちはない。ただ目的は良くてもやり方如何では思いがけない結果がでる事がありうる。風が吹けば桶屋が儲かる的な話しは世の中多々ある。その為に国土交通省では本年度から試行に入る事になっているから本格実施までには問題点の多くは解決されているだろう。電子入札と言っても中身は従来の考え方の延長なのでそんなに変わるわけではないが,事務手続きの簡素化によって入札参加者を飛躍的に増やす事が可能になるとか大きな変化もある。この点が競争の促進を促す最大の眼目なのであろうが,物理的には多人数の参加者を捌けるには違いない。しかし多くの参加者が激しい競争を繰り広げるとは限らない。仕事が少なくなっていく中で大半の工事は競争激化に見舞われダンピングまがいの札がでる事も多いと思うが応札者無しという事も考えられる。これが自由競争の結果なのであるから先ほども述べたように試行期間の中で解決する方法を探していくしかない.ただ,くどいようだが電子入札は単なる手段の変更であって本質は別にあると言う事を確り認識しておく必要がある。電子入札そのものは万全な手段ではないのである。なぜこんなあたりまえのことを言うかというと,最近のマスコミの報道が電子入札にすれば万事解決でコストが簡単に2~3割は黙っていても安くなると言っているからである。電子入札にする事のマイナス部分には全く触れられていない。それどころか,横須賀方式を導入すればなんでも解決する。導入しないのは怠慢だという論調である。本当にそうであればよいのだが横須賀方式の実態を横須賀の業者から聞いたところによると,コストではなく値段だけは下がっているが他の問題が一杯吹き出ているという事である
例えばあるプロジェクトがあり,工事予算が発表される。最低落札価格の%は決まっているので入れ札はその値段に張り付いている。しかも予定価格は籤引きで決められると言うから,誰も積算しないで応札するという.結果は籤引きと同じで運を天に任せるしかないのだという。従って工事体制を整える気もしないし,経営の予定も立たない。たまたま当たった会社は準備がないから大変で仕事をこなすだけでいい仕事を気を入れてやれる状態ではないという。予定価格の籤引きも何の根拠もない部引きと同じだし,落札した業者の管理監督にこれまで以上の手間がかかることは想像に難くない。その他、まじめな技術者の研鑚意欲をそぐなど第二次的な影響も大きい。それでも電子入札は世の流れであろうから進行を止めるわけにはいかないが、入札行為は電子入札になる事によって大きく変化する事は間違いない。良い方向に変わって欲しいと思うが、このままでいくと入札という大変重要な行為が単に顔の見えない非人間的な行為になるだけの可能性もある。関係者の努力に期待するところ大である。
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