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 都市再生の方向性を探る

   小泉内閣の骨太の方針の中に都市の再生がある.簡単に都市の再生という言葉を使うが再生という言葉はもうちょっと考えて使うべきではないかと思う。再生とは恐らく再生品に見られるように駄目になったもの,古くなったものを前と同じ物に作リ直すというイメージがある。再生紙,パソコンの再生品など数多くある。勿論今回の都市の再生が単なる再生でない事は諸般の情勢で良く分かっているつもりであるが,本当の目的については良く分からない点が多々ある。その第一の疑問は目的の設定方法である。本来都市問題は超長期的視点に立って考えられるべきものであって,短期の経済対策として考えられるべきものではない。それに都市は経済活動の拠点でもあるがそれ以前に国民の生活の場である。都市問題を経済活性化のための道具にしようとしているが,これはいつかきた道の繰り返しのような気がする。中曽根内閣の時盛んに言われた「民活」が何をもたらしたかということを考えてみる必要がある。バブル経済の原因は色々あるであろうが,当時の「民活」が一つの原因であった事は否定できないであろう。そして当時の民活プロジェクトが都市機能の面から見てどれだけの意味があったかは大いに疑問があると思う。今回の都市再生も民間主導が原則であるといっているが、都市に対する理念無き制度の改変や規制の緩和は長期的に見た都市のあるべき姿から遠いものにしてしまう結果になる。現在の都市の姿に問題があるという認識から,この都市の再生という声があがっていると思うが,その根本原因を作ったのが場当たり的な経済活性化という名目の制度や規制の改変や緩和にあると思うのであるがどうであろうか。先程も述べたように都市づくりは超長期的な視点に立って行う施策であるべきである。それでないと国民の考える美しい街並みや景観はいつまでも出来ないし、場当たり的であるが故の作っては壊しの所謂スクラップアンドビルドになってしまい地球環境からはなんとしても避けねばならない大量の建設廃材の山を築く事になる。我々は永く愛される建物を研究しているが,その大敵が頻繁な制度や規制の改変であると考えている。それに今都市再生の為の手法として考えられている民間主導、即ち市場経済に適合する都市開発という考え方からは個々の開発の効率性ばかりが優先され街並み全体の統一性は当然二の次にされる。これでは一時的経済効果は上がるかもしれないが国際社会の都市間競争には何時になっても勝つ事は出来ない。都市の魅力は床面積あたりの単価だけではない。そんな事はわかっているといわれると思うが,では今都市再生を言っている人々に都市の魅力について明確なビジョンがあるのであろうか。都市の景観のあるべき論を語れる人がどれだけいるのであろうか.更にいえばあるべき都市景観を導き出す処方箋をお持ちの方はいるのであろうか。これらの議論を終えて初めて進むべき道がはっきりしてくると思うのであるが。では,筆者に名案があるかと問われても,今すぐ回答は持ち合せてはいない。それでは,なんでも反対党と同じで無責任ではないかといわれるであろうが,一つだけ名案ではないかもしれないが考えていただきたい提案はある。それは素人談義の域を出ないかもしれないが,現在の経済状況に対する緊急経済対策にもなるかもしれない提案である。現在デフレを何とか食い止めたいという論議が盛んである.個人消費が伸びないのが原因であるとか銀行の不良債権が問題であるとか言っているが,いずれにしても政府は財政逼迫で金がない。したがって財政の出動もままならない。日銀がいくら金融緩和をしても新たな産業が立ち上がらなければ投資先もない.まさにないない尽くしである。国債の発行枠30兆以下というきついタガがはまっているから身動きが取れない。しかし,都市づくりの大枠さえ決めれば少なくとも打つべき手ははっきりしてくる。それは都市に於ける私有地と公共用地のあるべき姿、比率を決めるのである。少し古いデータであるがドイツ(旧西ドイツ)の大都市の公有地の面積比率は4%を超えるという。10万から20万の人口の小都市でも25%程度になるということである。真に住民の為の街づくりに必要な公有地の比率はどれくらいか分かりかねるが識者に検討してもらえば結論は出ると思う。現状より高い比率になるであろうから,その比率まで次第に上げていく計画を立てることである。その金を捻出する方法であるが公有地国債でも,何でも良い.それが将来国民の財産になる事が明確になっていれば買う人も安心である。勿論土地の買い手は自治体であって変な特殊法人を作る必要はない。現在の地価が高いと見るか安いと見るかは意見が分かれるであろうが、少なくとも高すぎるレベルではないと思う。それに公有地にして立派な街づくりの素材になれば将来価値が上がる事はかなり確実である。しかも上がった価値の受益者は国民なのだから、公有地を民間に払い下げて活用させ利益を全部民間に出してしまうよりずっと良いはずである。私有権の強い日本では,公有地が街並みを整える役割をかなり担わなければ良い街づくりは出来ない。今の経済対策で日銀が金を市中にいくら出そうともまさに笛吹けど踊らずであろう。今こそ将来に向けて公有地を増やしていくこう絶好の機会ではなかろうか。