人材の流動化に期待する
最近発足した小泉内閣の閣僚名簿を見て気が付いたことがある。女性の多い事と全体的に若い事はよく言われていることであるが、色々なキャリヤーの人がいるという事である。竹中大臣のような民間出身の人は当然政治家ではないのだから経歴が異なるのは当たり前であるが,政治家の場合であっても党人派といわれる根っからの政治家や官僚出身の人に混じって,異色の経歴の人が多い。国土交通大臣が女優の出身である事は象徴的であるが,その他にも坂口厚生労働大臣のようなケースもある。改革の為の適材適所の人事だというが、少なくともその姿勢が感じられる布陣であるように思う。
さて,建設関係の事であるが,建設産業特に公共投資を10年で半分にするどころか塩川財務大臣によれば3分の1にするとの事である。10年で半分なら毎年7~8%減であるから若い人までリストラしなくても自然減プラスアルファ-くらいで何とかやれるが3分の1にするということであれば、建設関係者の全ての分野に老いも若きも、官も民も学も分け隔てなく人員削減の対象にしなくてはならない。このような場合,産業に必要な人材だけ残し後の人は新しい産業に移動するしかないがその受け皿作りは行政にも一役買って頂かなければならないであろう。しかし,このような場合産業側でも努力しなければならないのは、残る人材を固定化しないことである.真の意味での適材適所を図れるような人材の流動化を図らなければならない。再び政治に話を戻すがアメリカで政権交代が起こると新しい政府は事務方の幹部まで総入れ替えになる。ただしやめていく人は失職するのではなく,多くは学者に戻るとか民間のシンクタンクに移るとか,コンサルタントをするとか何らかの新しい仕事を見つけて活躍していく。アメリカ社会全体に基本的に流動可能なシステムがあるからであるが,日本でもこのグローバリゼーションの時代に大きな流れとして同じようなシステムを構築していく必要がある。
先日,新聞で東大の土木の助教授に民間の建築家が就任したというニュースが載っていた。異例の人事であるとの事であるが、3つの点で今までにはありえなかった人事であろう。一つは、建築分野の人が土木の分野の先生になったという事.二つ目には東大出身者でないこと、三つ目は経歴が教育関係でないことである。この人事を見て感じるのは,選任した側の勇気とでもいうか考え方の柔軟さである。教育界も変わりつつあるなという感じがしてならない。世の中が変化している時、教育界だけ象牙の塔にいてよいはずがない。必要なものは先例にこだわらずに変えていくという姿勢であろう。
このように官学民の間の垣根,建築と土木の分野の垣根が実力主義をベースに取り払われていけば,とかく古いといわれる建設分野にも新しい風が吹き込まれるであろう。このような人材の流動化はうまく働けば真のジェネラリストの出現も期待でき,高度に複雑化する現実のプロジェクトをマネジメント出来る人材が育つ環境が出来るかもしれない。いわゆるキャリアアップシステムの実現である。日本にコンストラクションマネージメントがなかなか定着しない大きな理由はこの人材の流動性がない事ではないかと考えている。官庁に入って行政をやる技術者は,現場体験が出来ない。建設会社に入った技術者は現場の事しかわからない。設計は設計,研究は研究だけしかわからないスペシャリストの集団ばかりが育つ。それもある程度必要ではあるが,建設のようなプロジェクトにはジェネラリストやマネージメントのプロは絶対必要である。大きな視野,人をまとめる力、所謂マネージメントに必要とされる能力はスペシャリストの経験だけでは養われない。例えば今,脱ダムの主張が出てダム技術者は目をむいているが、それが正しいかどうかは別にして,少なくともこのような発想がダム技術者から出てこなかった事は事実である。世の中の変革の時,価値の転換がなされなければならない時,人財の流動性があればその時代,時代に必要な人材は出てくる可能性がある。いづれにしても活力ある社会とは人材の適材適所がスムースに行われる社会である事は間違いない。東大におけるこの人事が成果を上げ成功する事を祈りたい。話があちらこちらに飛ぶが、外務省の人事問題でもこれだけ紛糾するのは、外務省に限らず官庁における最重要事が組織防衛であり人事権を守る事であるからである。そしてこの点に貢献した人が出世していくシステムになっている。従って組織優先でその締め付けは、それは厳しいものがあり不祥事が起きれば自殺者が出るほどである。こんな非人間的な状況を打ち壊せるとしたらこれまた人材の流動化しかない。人材の交流が可能であれば、そんなに組織に囚われないですむ。そして人材の流動化は機密費の使い込みのようなクローズトな組織ゆえに起こる不祥事も防ぐ事になる。まさに一石二鳥である。日本社会の構造改革の大きなポイントではないであろうか。
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