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入札改革への新しい規準(企業の社会的責任) 

 十数年前から入札に関する様々な改革が行われてきたがこの数年とくに色々な改革が多くの発注機関で進行している。大きな流れは指名競争入札から一般競争入札へというものであるが、このごろは総合評価に少しでも近づけるような様々な方法が提案され実施されている。この基本的な流れでは、その考え方の背景には国土交通省が入札改革の当初発表した“より良いものをより安く”という概念がある。この考え方は、国民、納税者のニーズを代理人として公共工事を発注している当事者としては当然のことである。しかしこの“より良いものをより安く”という基本は必要条件であって十分条件ではない。というのは、そもそも公共事業の目的は豊かで、安全な環境を国民の為に作り上げることであって、より良いものをよりやすく造ることが最終目的ではない。

 例えば結果的によりよいものがよりやすく造られても、入札のやり方次第によっては、過当な競争を招き、落札者は様々な無理を重ねることになるかもしれない。国民にとってよいものが安く出来たらそれで良いではないかと言う意見もあろうが、社会全体でみるとその行為は無理の付回しに過ぎないし、場合によってはその無理が法令違反や社会的な問題を含む行為に繋がらないとも限らない。

 もう少し突っ込んでいうと、入札に参加する企業は発注者に対する責任と同時に企業としての社会的責任も果たさなければならないのである。法令を遵守することは勿論、地球環境に配慮し(これは法令に決められている範囲のことだけでなく)文化を守り育て、下請けやサプライヤーにも無理を押し付けることなく、地域住民の生活にも配慮を怠り無く、当然のことながら社員、従業員に対しての雇用や利益にも気を配り、言い換えればステークホルダー(利害関係者)全員の利益をバランスよく配分し、一部にでもしわ寄せをすることが無い様に十分な配慮をする社会的責任を果たさなければならないのである。

 今年の5月、日本経済団体連合会は企業行動憲章を改定した。その中で、「近年、市民社会の成熟化に伴い、商品の選別や企業の評価に際して、企業の社会的責任(CSR)への取り組みに注目する人々が増えている。中段略。企業はこうした変化を先取りして、ステークホルダーとの対話を重ねつつ社会的責任を果たすことにより、社会に於ける存在意義を高めていかなければならない。」と述べている。

 このような経団連の考え方からすれば、現在の大半の入札改革の方向は十分な条件を備えているとはいえない。確かに社会的責任を企業が果たしているかどうかという判定は非常に難しい。それを入札条件に加味することはもっと難しいとは思う。しかし、他産業の商品に対する消費者の選別規準では環境対策商品や、フェアートレード商品など値段や品質だけでなく、独自の判断基準を持って消費者は積極的に行動を始めている。直接商品を選ばない場合でも、消費者は企業の選別を投資活動という形で始めている。いわゆる社会的責任投資(SRI)である。環境や文化、それにコンプライアンスに積極的に取り組んでいる企業を選別して投資していくファンドに人気が高まっている。

 この様に建設産業以外では、コストと品質のバランスだけでなく、特にコンプライアンスには厳しい目を注いでいる。最初に述べたように最近特に公共工事の入札には様々な改革がなされているが、全てはコスト一点に絞られていると言っても過言ではない。設計施工一括方式やプロポーザル方式など、品質や工期に踏み込んだものもあるが重点は相変わらずコストであることが多い。しかも他産業における商品の選定規準のように環境やコンプライアンスに厳しい目を注いでいくと言う考え方はどの入札方式にも無い。勿論法令違反した企業は指名停止や営業停止などのペナルティーはあるが、一定の期間が過ぎればそのことが入札参加の条件に影響することは無い。しかし直接消費者に選別される他産業の場合たった一回の法令違反が企業の命取りになってしまうことは多い。それだけ消費者はコンプライアンスに厳しい目を持ち簡単には忘れないということも出来る。

 公共工事の入札にも他産業の消費者の感覚に近いものを取り入れないと公共事業に対する不信感は何時までたっても払拭されないままになり、極端に言えば必要な公共工事の執行にまで不信の目を向けられることになる。難しい問題なので今すぐにとは求めないが、入札改革に新しい消費者の感覚を取り入れる検討を始めるべきであると考える。