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子どものための建築・都市12か条
(建築学会)を考える

   建築学会の子どもと高齢者に向けた学会行動計画推進特別委員会が子どものための建築・都市12か条を発表した。副題には子どもと家族のための建築・都市環境づくりガイドラインとある。建築学会の意図は全く同感であり,筆者などが論評を加える余地は全くない。しかし、敢えて述べるとすれば,副題の視点をもっと強調すべきであろう。子どもや高齢者に焦点を当てるのは素晴らしいことであるが、その前に人間全体にとっての建築という視点が必要であり労働環境を含めて建築や・都市環境の意味するところをもっと掘り下げておく必要があるのではないであろうか。子どもの生活環境を作る大人が病んでいては,良好な環境作りはとても適わない。少子化の真の原因を捉えるのは難しい事であるが、大人の社会が抱える色々な問題が複雑に絡みあっていることは間違いない。その中には住環境を含めた建設環境が大いに関係している事は想像に難くない。(子は親の鏡)と昔から言われるように、子どもに問題があるのはガイドラインにあるように現実の問題であるが,その原因の大半は大人にあり、子どもの環境づくりに励むと同時に,というよりも先行して大人の生活環境にももっと関心がもたれなくてはならないと思う。大人の住環境というと価値観の相違や考え方、趣味の違いがありすぎて統一的な纏め方が出来ないのかもしれない。しかし、ワンルームマンションやミニ開発など経済市場優先主義による劣悪な住環境を許してきたのも現在の産業界であり、収益還元法で投資効率一点張りの開発や不動産の証券化が進行すると、人間性を豊かにする住環境を保証する方向に行くかどうか多いに疑問である。現在経済の活性化のために都市の中心部の規制緩和が言われて進みつつあるが,憲章に言われている接地状況からは益々遠のく高層化が進行していくことになるのではないであろうか.従って都心からは子どもや庶民が追いやられる事になり、都市が普通のコミュニィティーを形成する可能性をなくしていき,特に夜間は死んだ街になる可能性が高い。現在でも幼稚園や,小学校がどんどんなくなり、都心は高齢者と外国人の町になりつつある。完全にビジネス街であればある程度止むを得ない事かもしれないが、第二種住居地区にコミュニィティーが成立しないような再開発が街づくりとして正しいかどうか多いに疑問である。市場万能主義で採算を取れば、都心に庶民が住めなくなるのは当然であろうが、ヨーロッパの場合古い街並みの残されているところには、昔ながらの住民がそのまま住みつづけているのがある。そんな街にたたずむとほっと心が休まるのは筆者だけであろうか。街は建物で構成されてはいるが住民のいない街は死の街であり、子どものいない街は死にゆく街である。
同じ建築学会の出した、地球環境建築憲章で謳っている長寿命化の概念は世代間に引き継がれる建物を想定しているはずである。後継者のいない街づくりは.結局永く愛されない建物を大量に生み出す事になる。都市計画法も土地税制もそして相続税法も、現在の日本では永く愛せない環境、状況を作り出している側面があるのではないであろうか。例えば、建蔽率や容積率が頻繁に緩和されれば、取り壊してもっと効率よく建てたくなるのは人情であろう。そして、相続税が資産継承のネックになっている事は常識である。子どものための憲章も大切であるがこれだけ取り上げて解決を図る事よりも総合的に解決する方向で考えないと根本的な解決は難しい。しかし、永く愛される建物を作る事は、環境問題からというより、生活環境を豊かにする事、心のケア-の点からもどうしても取り組まなければならない課題であると思う。それが真に次世代の子どもに価値あるものを残す事になり、子どもの未来を豊かにする方法である。又、今社会で起こっている少年の心の問題は、大人の社会の問題の反映であり、子どもの問題と捉える考え方は間違いである。根本的な解決は社会全体で心の豊かさを味わえる、生活を楽しむ事の大切さを取り戻す事を考えないと、人間性の破壊が益々進行することになりかねない。大競争時代というマスコミのアジに載せられて右往左往してばかりでは問題は悪くなるばかりである。我々が携わっている建設環境だけでも、子どもたちを守る方向に切り替えていかなければならないと考える。その為にこの12か条が真に役立つ事を期待してやまない。